恥ずかしい思い出 (片思い 中尾ミエ)
この曲は私がまだ小学生の頃よくラジオから流れていた曲なのですが、のちに大人になってから大変恥ずかしい思いをさせられることになります。 <br /> <br />遠い過去の私がまだ20代の頃、私が2年間ほどお付き合いをさせて頂いたある女性の話です。 <br />その女性は私より4才ほど年下で目がクリっとしていて明るく清楚な感じの可愛い女性でした。 <br />彼女は同じ会社の他部署に所属していて、私とは書類を届けたり届られたりといった程度の繋がりでしたが、彼女はあまり人見知りしないタイプのようで私にも気軽に話し掛けてくれていました。 <br />当時の私は恋愛には奥手なほうで傷つくのが怖くて自分から女性に近づくことはありませんでした。 <br />ただ他人にはいい人だと思われたいという願望が強く、うわべでは誰にも印象良く笑顔で接し相手に不愉快な思いをさせないように気を付けてはいました。 <br />その日も彼女に書類を手渡し自部署へ戻る為に階段を降りていると彼女が後ろから走ってきて <br />「あの~今度の〇曜日に映画にいきませんか?」 <br />「えっ?」 <br />彼女の言葉ははっきりと聞き取れたのですが真意が分からず彼女の顔をみつめていると、彼女は顔を真っ赤にしながら <br />「新聞屋さんから映画の券を何枚も貰ったのですがなんか一人じゃ行きづらくて・・・」 <br /><えっ、こんなおとなしそうな子が・・・>私は少し驚きましたがこんなケースの場合間髪を開けず気持ちよくOKを出さないと相手を傷付けてしまうと思い <br />「おっ、いいねぇ、自分も予定がないので(本当は予定があったのだけど)行こうか」 <br />こういったやりとりの後約2年間彼女と付き合うことになります。 <br /> <br />彼女とのデートは月に一回程度でしたが、当時の私の趣味は奈良や京都の名所旧跡めぐりというマニアックなものだったので、彼女は何処でもいいと言うもののそれでは退屈させると思い彼女の行きたそうな所をそれとなく聞き出し行動を共にするようにしていました。 <br />そうした日々を重ねているうちに私は彼女を見て思うようになりました。こんな何の取り柄もない自分に彼女は好意を持ち慕ってくれている、彼女の両親も交際を認めてくれているようだし、彼女ならこんな自分でも幸せに出来るかもしれない・・・ <br />そして付き合い始めてから一年半ほど経ったある日、楽しく過ごしたデートの帰りの電車の中、ドアの前に立ってしばらくしてから私は彼女に言いました。 <br />「ずっと・・・ずっと一緒に居れたらいいなぁ」 <br />彼女は最初少し驚いたような表情を見せましたが、その後満面の笑みを浮かべ「私も」と言ってくれました。 <br />それからの半年間私は幸せでした。バラ色の人生という言葉がありますが大袈裟ではなく辺りが本当に薄くバラ色に染まっていたようなそんな感じの記憶があります。 <br />しかしそれから半年後、状況は一変してしまいます。 <br />ある週の初め頃、夜遅くに彼女から電話が掛かってきて <br />「こんな時間にすみません・・・明日会社の帰りに〇〇さん(私の名前)の駅の方まで私が行くので会いたいです」 <br />彼女の家は私と方向が全く逆なので平日の帰りに待ち合わせることは滅多に無かったし、彼女の声が少し暗いのが気になりましたが <br />「うん、じゃぁホームの階段を降りた所で〇時に待ってるから」 <br />と言って私は電話を切りました。 <br />翌日、ホームから降りてきた彼女はどういう訳か目は真っ赤に充血し瞼が腫れあがっていました。とりあえず構内の喫茶店にでも入って話を聞こうと思い誘おうとすると、彼女はいきなりその場に座り込んで泣き出しました。 <br /><こ、こんな所で・・・>案の定帰りのラッシュで行き交う人がみんな私を白い眼で見ながら通り過ぎて行きました。 <br />私は彼女を移動させる事を諦め事情を聞くことにしました。 <br />しゃくり上げて泣いている彼女はうまく話せないようでかろうじて(子供)とか(迷惑をかける)とかそんな言葉が聞き取れましたが全く話が繋がらず、私は彼女が少し落ち着くのを待って聞くことにしました。 <br />どうやら彼女の話によると、彼女が両親に私との将来について話をしたところ反対されたとの事でした。 <br /><そんな・・・> <br />彼女の両親とは電話で彼女を呼んでもらう時などに何回か話をしましたが、父親も母親も穏やかな感じのいい人のようで、恐縮しながら”スミマセン”を連発する私に対し優しく応対してくれました。 <br />この両親ならやがてやって来るであろう彼女の家を訪れる日もなんとか乗り切れるだろうとか、そんなことを思ったりもしていました。 <br /><そんな・・・付き合うのはOKで結婚はダメなんて・・・そんな・・・> <br />私も頭の中がパニックになりそうでしたが、泣き続ける彼女を見ながら <br /><こうなったら土下座でもして許して貰えるるまで通うしかないか・・・> <br />そんなことを考えているといきなり彼女が立ち上がって顔を上げ、目に一杯涙を溜め、そして無理に笑顔を作りながら言うのでした。 <br />「三日間泣いたから少し気持ちが晴れました」 <br />しかし笑顔を作って話せたのはそこまでで、再び彼女はうつむいて涙を床に落としながら <br />「こんなことになるのに〇〇さんと付き合ったりして・・・」 <br />「こんなことになるのに〇〇さんを誘ったりして・・・私って・・・私って・・・」 <br />私は「今になって何言うの・・・とにかく自分がなんとかするから・・・」 <br />すると彼女は首を左右に振りそして私に対して膝に頭が付くくらい深々とお辞儀をし「今まで本当にありがとうございました」そう言うと彼女は涙を手で拭いながら走るように階段を駆け上がって行きました。 <br />「えっ?ちょっと待てよ」私は慌てて追いかけようとしました。追いかけてつかまえて「約束したじゃないか、もう一人で終わらせられる訳ないだろう」そう言おうとしました。しかしある現実が私の脳裏をかすめました<彼女がまだ迷っているならともかく、もう彼女を含めた家族全員で結論を出してしまっている、もう戻れないじゃないか・・・>結局私は足を動かすことが出来ず、その場に茫然と立ち尽していました。 <br /> <br />それから数か月 経ち、私は再び以前の退屈ながら平穏な日常を取り戻そうとしていました。 <br />ある日の朝、給料日直後で少し余裕があった私は、駅の構内にあるお気に入りのモーニングセットを出す喫茶店で朝食を取ってから出勤することにしました。 <br />席についてしばらくすると店内の有線から中尾ミエさんのこの曲が流れてきました。 <br /><あっ、この曲子供の頃聞いたことがあるなぁ>そう思い聞き入っているとどういう訳か別れた彼女の顔が頭に浮かび涙が溢れ出しそうになりました。 <br /><なんで・・・なんで彼女のことなんかで・・・人を振り回すだけ振り回しておいて相手の気持ちなんか全然考えないで消えていった女性なのに・・・> <br />私は必死にこらえようとしましたが辛い恋愛経験を持つ者にとってこの曲のインパクトはかなり強烈でした。 <br />信じられない量の涙が溢れ出しついにはテーブルの上にポタポタと落ちました。 <br /><何やってんだよう・・・こんな人前で・・・たかが恋愛ごとで男が泣いてどうするんだよう・・・こんな所で泣くくらいならあの時彼女を追いかけて、しがみついて泣けば良かっただろ・・・> <br />私は自分自身を責め、罵りました。 <br />それでも涙は止まることは無く、私は恥ずかしくて、情けなくてお気に入りのモーニングセットにも手を付けることなく店を飛び出していました。